九谷焼 の凸盛(でこもり)は、九谷焼の装飾技法の中でも特に視覚的なインパクトを持つ技法で、立体感のあるデザインを器に施すことで、個性ある美しさを生み出します。盛絵具を使って、器の表面に盛り上がりを持たせるこの技法は、その名の通り、まるで「デコレーション」されたような仕上がりになることから、デコ盛とも呼ばれることもあります。
凸盛技法の発展は、明治時代初期にまで遡ります。当時、日本は開国し、西洋文化が流入する中で、陶磁器の輸出が盛んになり、九谷焼もその一環として世界に知られるようになりました。欧米市場に向けた作品の中で、視覚的に際立つ技法が求められ、その結果として凸盛技法が生まれました。特に、盛り上げた部分に金彩や銀彩を施すことで、九谷焼ならではの絢爛豪華さをさらに強調する作品が多く作られました。
凸盛技法の核心は、緻密な作業による立体感の創出です。職人たちは、特殊な「いっちん」または「一珍」と呼ばれる道具を使用して、粘度の高い絵具を絞り出し、器の表面に盛り上げを作ります。この作業は非常に繊細で、均一な高さと幅を保ちながら進められます。盛り上がった部分にさらに色釉を施したり、削って模様を変化させることで、立体的なデザインに深みを与えます。
凸盛技法では、特に渦巻きや花のモチーフが多く用いられます。これらのモチーフは、器全体にわたって均一に配置され、盛り上がった部分が光を受けて独特の陰影を作り出します。また、職人が手作業で一つ一つの粒を丁寧に盛り上げていくため、専門的な技術が必要なことに加え、時間と労力がかかる技法でもあります。
現代においても凸盛技法は、その独特の立体感と装飾性から、特に置物など、アート性の高い作品に多く用いられています。凸盛を新鮮に受け止める若手作家たちによって、新しい表現方法として取り入れられています。伝統的な九谷焼の色彩と組み合わせることで、新たな表現が生まれています。
凸盛技法は、その視覚的なインパクトと触覚的な楽しさを提供するユニークな九谷焼の技法です。明治時代から始まり、現代に至るまで、その魅力と技術は進化し続け、九谷焼の中でも個性ある存在となっています。しかし、生活環境の変化による置物の需要減少や、凸盛技法を持つ職人の高齢化、そして後継者不足が深刻な問題となっており、この貴重な技法の継承が危ぶまれています。職人たちの高度な技術と工夫が生み出すこの技法を未来に繋げていくためには、色々な問題を解決する必要があり、中々難しいです。。